わたしごとJAPAN

BUSINESS
埼玉県草加市
関東 空き家活用
まつむら みのり

松村 美乃里さん

年代:
40代
出身地:
静岡県静岡市
所属:
わたしたちの月3万円ビジネス2期生
現在の仕事:
つなぐば家守舎取締役/フリーランスのデザイナー

2018年6月にオープンした子連れで働ける「シェアアトリエつなぐば」は、築30年の2階建てアパートをリノベーションしたアトリエ兼カフェ。利用者同士が子どもを見守りながら働けるだけでなく、さまざまなイベントやワークショップを開催し、地域と人、仕事をつなぐ起点となっています。訪れるとすっと肩の力が抜けて、ついつい長居してしまう。そんな「つなぐば」の居心地の良さを守り続けている、松村美乃里さんのストーリーです。

リーダーを務めるタイプではないんです。私の姉がまさにリーダー気質な人で、子どものころは姉のうしろに隠れていたくらい。「つなぐば」の1周年パーティーを母が見に来てくれたんですが、「みのりは人前に出る子じゃなかったのに」ってすごく驚いていましたね。

28歳のときに結婚して、フリーランスに転向しました。それまではイベント会社で空間デザインの仕事をしていたんですが、とにかく忙しくて。時間の使い方を見直したいと思ったんですね。本当は、専業主婦になりたかったんですよ。30歳までに子どもをつくって、家事と育児に専念するつもりでした。だけど、結婚から7年間、子どもを授かることができませんでした。誰かの幸せそうな話を聞くのがつらくて、人と会わずに一人で家にこもって仕事をしていた時期もあります。

夫の実家が近かったということもあり、家族で草加に引っ越してきたのは7年前。娘が生まれたときは本当にうれしかったです。でも草加の街になかなか愛着が持てなくて。実家は静岡市なんですが、静岡は人も気候も穏やか。海も山もあって、土地の起伏が生み出す景観もきれいで。静岡と草加を比べては、「この街には何もないなあ」って勝手に落胆していました。それが、娘が生まれたことで腹が据わったんでしょうね。私はこの街で生きていくんだから、って思ったら、娘がここで育って良かったと思えるような、誇りを持てる街にしたいという気持ちが湧いてきたんです。そのときから、私はずっと草加の街で“場づくり”に奔走しています。

「月3万円ビジネス」を知ったのはちょうどそんなときでした。チラシに「仲間をつくる」と書いてあったのを覚えています。まだ娘が生後6カ月くらいで、授乳しながら参加しましたね。そこで、家族ともママ友とも違う、草加の仲間ができました。

空間デザインの経験を活かして、まずは小さな場づくりからはじめてみようと思って、卒業実践では、誰でもおしゃれにイベント出店できる『どこでもゴヤ』という出店キットを製作しました。ただ、企業の仕事ばかりしてきたのでサイズ感を間違えて、ずいぶん大きな小屋に仕上がりました。講座を卒業して、ご縁があって駅前の丸井に同期たちと6ヶ月テナント出店したときは、店のイメージや価値観がみんなばらばらで、お店の切り盛りも大変で……場所を運営する難しさを痛いほど学びました。つらかったけど、自分一人だったら途中で諦めちゃったと思うんです。仲間がいるって、本当に大きな支えです。

自分の想いをビジネスという形にするとき、避けて通れないのがお金です。お金は大切だし、食べていけないのは困る。だけど、自分を押し殺して生きる苦しさを、私は嫌というほど知ったので。大切なのは、目先の利益よりも自分が本当にやりたいことかどうか。その軸をぶらさなければ、お金はあとからついてくると今は信じられます。「つなぐば」の経営は、借り入れなどの契約状況もあって最初の3年が勝負。まずは3年、私は何があってもこの場所を諦めないつもりです。私や娘、そして仲間たちが、草加の街を誇りに思える場所をつくり続けていきます。

取材・文:大吉紗央里
写真:池田英樹(プロフィール写真・写真上・写真下)