わたしごとJAPAN

BUSINESS
山形県鶴岡市
さくままどか

佐久間 麻都香さん

年代:
30代
出身地:
宮城県仙台市
所属:
鶴岡ナリワイプロジェクト
現在の仕事:
放置された柿の手入れを行う『柿守人』/山の柿の葉茶の製造・販売/エナジーバー『ショウナイ スペシャル』の製造・販売/鶴岡市観光案内所の窓口など

農家というと、米農家や豆農家のように「特定の作物を作っている人」と思いがちですが、佐久間さんの農業はちょっと違います。借り受けた柿の木の栽培を中心に、放置柿の手入れや自然由来の食品の製造・販売など、活動は多岐にわたります。自然と共生する佐久間さんの農的な暮らしは、どのように形作られたのでしょう。その過程は、違和感を見過ごさず、自分にとって自然な方法で一つずつ解決していく小さなチャレンジの連続でした。

小さいころ、両親と一緒にお米農家をしている祖父母の家を訪ねました。忙しい時期の手伝いだったと思うんですが、私の記憶は楽しかったことばかりです。軽トラックに乗せてもらったり、種まきをしたり。お米袋に埋もれて空を見上げたときの満たされた気持ちは今でもよく覚えています。

大学院を卒業した後、企業へ就職するのではなく、農家になる道を選びました。親からは「ちゃんとした仕事につきなさい」と言われましたが、私はそもそも「ちゃんとする」って何だろう? と思っちゃうんです。大学時代に青年海外協力隊でアフリカの稲作に携わったこと、大学院では栽培土壌学を学んでいたこともあって、きっと両親は卒業したら海外で農業指導に携わると思っていたんでしょうね。当初は私もそのつもりだったのですが、学ぶほどに自分がいかに農業を知らないかということに気づいてしまい、指導する前に実地でじっくり農業をした方がいいと思ったんです。ただ、農家になるには農地が必要です。新参者の私に農地を貸してくれる人がなかなか見つからなくて困りました。そんなとき大学時代の先輩が「研修生として手伝わないか」と声を掛けてくれました。農水省の「農の雇用事業」で助成金がおりたから人を雇えると言うんです。そこで、庄内柿に出合いました。

庄内柿はみずみずしい歯ざわりが特徴の種なし柿で、鶴岡の特産品です。ブランド柿ですが、収穫時期が全国的なシーズンより遅いため需要が減少します。研修中に知り合った柿農家さんから庄内柿の木を引き継いだものの、一体どうすれば利益が出るんだろうとしばらく頭を抱えていました。

一人で考えても仕方ない、と参加した鶴岡ナリワイプロジェクトで、仲間と一緒に問題点を洗い出しました。このとき、自分が抱えた問題ではなく、世の中にある柿の問題を広く洗い出したのが良かったんです。果実は収穫時期しか収入にならないけど、茶葉なら日持ちがして年間を通して収入につながる。その茶葉には無農薬の放置柿が使えるんじゃないか――。さまざまな問題がぐるっとつながって解決した瞬間でした。

2014年に着手し、翌年から正式に柿の葉茶の販売を始めました。今では新芽のおいしいお茶に仕上がっています。そう言うとまるで好きなことだけをして生きているように聞こえるかもしれませんが、少し違います。お金だけを目的にするなら、農業はやめた方がいいんですよ。柿の葉茶は商品化できたけど、それじゃあ月3万円稼ぐためにはどれだけの茶葉を売ったらいいんだろう、と計算すると、とんでもない量になっちゃうんです。大切なのは、自然の中でできることを、できる分だけ続けていくこと。「何農家なの?」「本業は?」そんな質問に対して抱いていた違和感から、この7年間でだいぶ抜け出せたと思います。関わる人全員にすべてを分かってもらおうという気負いがなくなったんでしょうね。農家としては、一年を通して自分のできることがやっと身についてきた感じです。細く長く、地に足のついたこの生活を、この先も続けていきたいと思っています。

 

取材・文:大吉紗央里