山崎 淳子さん
- 年代:
- 40代
- 出身地:
- 埼玉県羽生市
- 所属:
- わたしたちの月3万円ビジネス6期生
- 現在の仕事:
- 『じゅんちゃんちの曲げわっぱ弁当』(イベント出店やカフェでのランチ提供、弁当をつめるワークショップなど)/宅配業者パート社員
秋田県大館市の伝統工芸品・曲げわっぱのお弁当箱に惚れ込み、「曲げわっぱの弁当箱につめること」を3万円ビジネスにした山崎淳子さん。
初めて出店したイベントでは40個のお弁当が完売。SNSや口コミで人気が広がり、現在は月に数回、ケータリングやつめ方のワークショップを行っています。
息子3人の子育てやパートの仕事など、忙しい日々のなかで山崎さんが「自分の時間」を取り戻したのは、曲げわっぱがきっかけでした。
「つめる人」。それが私の肩書きです。スーツケースにつめられた荷物、贈答用の缶に敷きつめられた焼き菓子など、入れ物にきれいにものがつめられた状態には魅力がありますよね。私にとって一番魅力的な「つめる」は、曲げわっぱのお弁当でした。
お弁当箱を買ったのは偶然で、確かクリスマスの買い物をしに家族で出かけていたときだったと思います。一目惚れでした。思わず「買っちゃおうかな」とつぶやいたら、夫が「いいじゃん、買いなよ」と。久しぶりの自分のためのお買い物です。うれしかったけど、私にはお弁当を持っていくあてがないんですよ。パートの仕事は午前中。遅くても14時には帰宅できます。だから、朝お弁当を作って、帰宅してから食べることにしました。早朝の静かな台所に立って、好きな曲げわっぱを選び、無心にお弁当をつめる。パートから帰宅し、そのお弁当を誰もいない静かな家で食べる。その時間がすごくしあわせでしたね。それはたぶん、私が久しぶりに手にした自分だけの時間だったんです。
自分のことを後回しにするのは、ずっと当たり前のことでした。嫌だとか、無理している感覚もなくて。でも、三男を出産した後、ホルモンのバランスが崩れるのと家事や仕事で忙しくなるのが重なってしまって、体調を崩したんです。次男の入園式では、当日倒れてしまったのに写真撮影にだけすべりこんだんですよ。今だったら、写真に写っているのがお父さんだけでもいいじゃないって普通に思えるんですけど。
誰かの求めに応えることが当たり前だった私には、「月3万円ビジネス」への参加は他でもない“私”が楽しめることへの挑戦でした。私がしたかったのは、曲げわっぱのお弁当箱につめること。だけど、お弁当の写真を見せると「おいしそう」「食べたい!」と言われちゃう。私は「じゅんちゃんにお弁当をつめてほしい!」って言われたかったんです。そんな具体的なことを言う人、いるわけないんですけどね。
講座の卒業課題では「じゅんちゃんちの曲げわっぱ弁当」を出店して、がんばって作った40個のお弁当があっという間に完売。でも、気持ちは沈んでいました。どうして喜べないのか突き詰めていったら、私がやりたいのは弁当屋じゃない、お弁当を「つめる」ことなのに!って子どものように地団駄を踏む自分に気づいたんです。
自分の気持ちに正直になったら、いろいろなことが受け入れられるようになりました。以前は「主婦の小商い」と扱われるのが嫌で、主婦とかママっていうくくりで見ないでほしいと思っていたんですけど、よく考えたら私は確かに主婦だし、ママだよなあって。不思議ですよね。同じことを人から言われても、捉え方が以前とはまるきり変わりました。可能性を狭めていたのは、自分だったんです。今はやりたいことのイメージが浮かぶと、まず形にしてみようと思える。おかげで以前より忙しくなって困っています。家事をしてても、パートの仕事をしてても、自分が主体。好きな曲げわっぱのお弁当を通じてたくさんの人と出会える日々が、とてもしあわせです。
取材・文:大吉紗央里
撮影:池田英樹